はじめに
スイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)はPMモータと同じ同期モータの一種ですが、磁石は使われず、ロータは鉄のみで作られます。そのためモータ製造にかかるコストを下げられるとされ、現在までに活発な研究開発がなされました。弊社ではこれまでSRモータに関する設計技術、解析技術、駆動技術を蓄積してきました。そこで、本コラムではSRモータの設計、試作、駆動、評価までの流れを簡単ではございますが、紹介いたします。今回は設計から試作までの流れ、次回以降は駆動に必要な考え方、試作したSRモータの各種特性評価をそれぞれ紹介します。
SRモータの電磁設計
はじめにSRモータを設計します。今回は参考にするSRモータがない状態で設計を開始します。そのため、過去の事例をもとにした参考値に頼らずにSRモータを設計する手法を考案しました。詳細は以下の文献をご覧ください。
熊谷崇宏・伊東淳一・佐藤大介・日下佳祐:「磁気飽和を考慮した要求N-T特性を満たすスイッチトリラクタンスモータの最適設計手法」, 電気学会静止器・回転機合同研究会, SA-20-016/RM-20-016 (2020)
表1.1に今回設計するSRモータの仕様を示します。できるだけ小型にするため、極数は多めにします。また、寸法に制約は設けず、体積最小となるように設計することにします。電磁設計は
①初期設計 ステータ外径、積厚、巻数を計算する。
②詳細設計 電磁界解析ソフトウェアを用いて、出力特性を解析し、細部の寸法を調整する。
の順に行います。
表1.1 SRモータの設計仕様
出力 | 750W |
最大回転数 | 5000min-1 |
最大トルク | 2.39Nm |
電圧 | 65V |
相数 | 3 |
ステータ極数 – ロータ極数 | 18 – 12 |
図1.1に設計したSRモータの解析モデル、表1.2に主な寸法を示します。電磁界解析は2次元モデルを使いました。なおモータ内部の磁気現象には対称性があるため、6分の1の領域をモデル化しています。また、スロット占積率に余裕をもたせたこと、電流密度を高くしなかったため、コイル領域がやや大きめとなっています。設計途中で仕様を満足しなくなったり、懸念事項が生じた場合は再設計を行いますが、今回はひとまず、これで完了として、ベアリングホルダやシャフトなどの機構設計を行い、SRモータを試作します。
図1.1 SRモータの断面図(解析モデル)
表1.2 SRモータの設計結果
外径 | 105mm |
積厚 | 52.5mm |
ロータ外径 | 51.5mm |
ギャップ長 | 0.25mm |
巻数 | 14(1コイルあたり) |
SRモータの試作
図1.2に試作したSRモータの写真を示します。(a)はロータコアです。コアの製作方法は様々ありますが、今回は電磁鋼板を接着積層し、ワイヤカットで製作しました。また、組み立てたSRモータはその後の評価内容を考慮して、ステータコアの断面が露出するようにしました。次回はSRモータを駆動する方法について紹介します。
(a) ロータコア
(b) モータ全体
図1.2 試作したSRモータ