はじめに
スイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)は同期モータの一種ですが、磁石を使わないことから製造にかかるコストを下げられるとされ、現在までに数多くの研究開発がされました。
弊社でもSRモータに関する技術開発に取り組んでおり、先日「Motor Sketcher (SRモータ ver.)」をリリースいたしました。今回のコラムではMotor Sketcherを使ったSRモータの設計方法について説明いたします。
Motor Sketcher (SRモータ ver.)の特徴
Motor Sketcherはモータ設計をやったことのない技術者に向けて製作された設計ツールです。そのため、最低限の仕様を入力するだけでモータ寸法やコイルの巻数を計算することができます。また、スロット数やコイル電流密度といったパラメータも「詳細設定」のメニューから入力できるため、実際の設計仕様を反映することができます。さらに、鉄心材料の特性を考慮した「磁気飽和度」というパラメータを導入しているため、材料による設計結果の違いを明らかにすることもできます。なお、設計アルゴリズムは以下の文献で示されていますので、詳しい内容はそちらをご参照下さい。
熊谷崇宏・伊東淳一・佐藤大介・日下佳祐:「磁気飽和を考慮した要求N-T特性を満たすスイッチトリラクタンスモータの最適設計手法」, 電気学会静止器・回転機合同研究会, SA-20-016/RM-20-016 (2020)
熊谷崇宏・伊東淳一・日下佳祐・佐藤大介:「磁気飽和に着目したスイッチトリラクタンスモータの主要パラメータの自動設計法」, 電気学会論文誌D, Vol.141, No.12, pp.962-975 (2021)
Motor Sketcher (SRモータ ver.)での初期設計
図1.1はMotor Sketcherのトップ画面です。Motor Sketcherでの設計は仕様を入力するだけで完了します。最低限必要な仕様として、相数、定格出力、基底速度、最大速度、電源電圧、ロータ外径上下限を入力します。
図1.1 Motor Sketcherのトップ画面
今回は表1.1の仕様で入力することにします。Motor Sketcherではロータ外径ごとに各部寸法とコイル巻数を計算するため、ロータ外径範囲を入力する必要がありますが、ひとまず適当に決めておきます。なお、入力したロータ外径範囲を0.1mm刻みで計算するため、あまり範囲を広げてしまうと計算時間が長くなり、設計結果が表示されるまでに時間がかかります。
表1.1 SRモータの要求仕様例
項目 | 値 | 備考 |
相数 | 3 | |
定格出力 | 750W | 基底速度から最大速度にかけて出力できることを前提としています(定出力特性)。 |
基底速度 | 3000min-1 | 最大トルクを出力することができる速度の上限を設定します。これにより最大トルクが自動で計算されます。 |
最大速度 | 5000min-1 | |
電源電圧 | 48V | SRモータを駆動するためのインバータの直流電圧を設定します。 |
ロータ外径範囲 | 10mm ~ 100mm |
表1.1の仕様を入力すると、図1.2の設計結果が得られます。Motor Sketcherではデフォルトでコア体積が最小になるときの設計結果を表示します。また、グラフのカーソルは動かせるようになっているので、異なるロータ外径における設計結果を表示することもできます。これにより、もしも外径(ステータ)や積厚に満足できない場合は適切な設計結果を探すことができます。
(a) モータ形状
(b) ロータ外径ごとに設計したときのステータ外径と積厚およびコア体積
(c) コア体積が最小になるときの設計結果
図1.2 Motor Sketcherの設計結果表示