第7回:トルクを効率よく出力するための電流ベクトル選択方法

最大トルク/電流制御

 「第4回:永久磁石同期電動機の電力とトルク」の図4.1に示した通り、トルクはマグネットトルクとリラクタンストルクの和で得られます。また、図4.1より、電流位相角が0度から90度の間ではトルクは電流位相角に対して上に凸の関数であることがわかります。電流の二乗に巻線抵抗値をかけたものが銅損なので、電流ベクトルの大きさが一定の場合、トルクが最大となる電流位相角でモータを駆動すると銅損が最小になります。このように電流に対してトルクを最大にする制御を最大トルク/電流制御といいます。最大トルク/電流制御はMTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御と呼ばれることもあります。
 図7.1に電流振幅を変化させたときのトルクの電流位相角特性を示します。図7.1より、電流振幅によってトルクが最大となる電流位相角が変化することがわかります。MTPA制御ではトルク指令値に応じて電流位相角を選択します(図の青い線)。MTPA制御を実現する電流位相角は以下の式※1で表されます。
$$
\begin{equation}
\large \beta = \large \sin^{-1}\left\{ \frac{-\psi + \sqrt{\psi^2 + 8(L_q – L_d)^2 I_a^2}}{4(L_q – L_d) I_a}\right\} \label{MTPA電流位相角}\tag{7.1} \\
\end{equation}
$$
 (\ref{MTPA電流位相角})式を用いて電流ベクトルを選択することで、銅損を最小にすることができるため、トルクを効率よく出力することができます。

図7.1 トルクの電流位相角特性

   

最大効率制御

 上記の通り、MTPA制御では銅損が最小となるように電流ベクトルを制御します。一方、電流ベクトルを変化させると、銅損だけではなく鉄損の値も変化します。銅損と鉄損の和を最小にするように電流ベクトルを選択する制御を最大効率制御といいます。MTPA制御ではモータの数式モデルを基に銅損が最小となるように電流位相角を制御します。しかし、鉄損をモデル化することは困難であるため、最大効率制御では数式に基づいてオンラインで損失最小となる電流位相角を計算することは困難です。数式モデルでは鉄損を等価鉄損抵抗でモデリングする方法がありますが、等価鉄損抵抗は運転条件(速度やトルク)によって変化し、磁気飽和による非線形性があります。そこで、最大効率制御を行う場合は、モータベンチ試験によって効率が最大となる最適な電流ベクトルを運転条件ごとに測定し、測定結果に基づきルックアップテーブルを作成することが一般的です。

●ルックアップテーブルを作成する際の主な手順
  1. 負荷側から供試モータを一定速度で回転させる。
  2. コントローラによって供試モータの電流ベクトル(振幅、位相)を変えた時のパワーアナライザの値を記録する。
  3. 速度を変化させ測定を繰り返す。
  4. 測定結果を基にテーブルを作成する。
図7.2 モータベンチ試験の構成

   

※1 MTPA制御を実現する電流位相角の導出方法

 MTPA制御を実現する電流位相角は次の手順で求めることができます。

●導出方法
第4回でも述べたようにトルクは以下の式で表すことができます。
$$
\begin{equation}
\large T = P_f \psi i_q + P_f (L_d – L_q) i_d i_q \label{トルク}\tag{7.2} \\
\end{equation}
$$
d軸電流とq軸電流は、電流振幅と電流位相角を用いて以下の式で表すことができます。
$$
\begin{align}
\large i_d &= \large -I_a \sin \beta \label{Iaとβで表したid} \tag{7.3} \\
\large i_q &= \large I_a \cos \beta \label{Iaとβで表したiq} \tag{7.4} \\
\end{align}
$$
(\ref{Iaとβで表したid})式と(\ref{Iaとβで表したiq})式を(\ref{トルク})式に代入すると以下の式となります。
$$
\begin{equation}
\large T = P_f \psi I_a \cos \beta + \frac{1}{2} P_f (L_q – L_d) I_a^2 \sin 2\beta \label{Iaとβで表したトルク}\tag{7.5} \\
\end{equation}
$$
(\ref{Iaとβで表したトルク})式は電流位相角が0~90度の区間では上に凸の関数※2なので、以下のようにトルクを電流位相角で偏微分し、0とおくことでトルクが極大となる電流位相角を求めることができます。
$$
\begin{equation}
\large \frac{\partial T}{\partial \beta} = 0 \label{トルクの偏微分}\tag{7.6} \\
\end{equation}
$$
(\ref{トルクの偏微分})式を計算すると、以下のような式となります。
$$
\begin{equation}
\large ax^2 +bx -\frac{1}{2} a = 0 \label{トルクの偏微分の展開}\tag{7.7} \\
\end{equation}
$$
ここで、\(x\)、\(a\)、\(b\)はそれぞれ以下の通りです。
$$
\begin{align}
\large x &= \large \sin \beta \label{x} \tag{7.8} \\
\large a &= \large 2(L_q – L_d)I_a \label{a} \tag{7.9} \\
\large b &= \large \psi \label{b} \tag{7.10} \\
\end{align}
$$
(\ref{トルクの偏微分の展開})式を解くと、(\ref{MTPA電流位相角})式が得られます。

※2 曲線の凹凸は2回微分可能であれば第2次導関数の符号によって判別できます。(\ref{トルク})式の第2次導関数は、\(-A \cos \beta -B \sin 2\beta \)のようになるため、0~90度の区間では上に凸、90~180度の区間では下に凸の関数となります。