第8回:高速でモータを駆動するための電流ベクトル選択方法

電流位相を変化させたときのベクトル図

 「第7回:トルクを効率よく出力するための電流ベクトル選択方法」では、電流位相を変化させることで効率よくトルクを出力できることを示しました。ここでは、まず、電流位相を変化させたときのベクトル図について考えます。
 図8.1に電流位相を変化させたときのベクトル図を示します。電流位相角0度の場合、全鎖交磁束\(\psi_o\)は永久磁石による鎖交磁束\(\psi\)とq軸電機子反作用\(L_q i_q\)によって決まります。一方、電流位相角が0度でない場合、d軸電流が流れることでd軸電機子反作用\(L_d i_d\)が発生します。ここで注目すべきは、全鎖交磁束\(\psi_o\)が電流位相角0度の場合よりも減少しているという点です。図8.1(b)より、負のd軸電流を流したときのd軸電機子反作用は、永久磁石磁束を弱める作用があることがわかります。この結果、誘起電圧\(v_o\)は電流位相角0度の場合に比べ減少します。

図8.1 ベクトル図

   

弱め磁束制御

 モータは回転速度\(\omega_{re}\)を上げていくと、誘起電圧\(e=\psi \omega_{re}\)が増加し、端子電圧\(v_a\)も増加します。一方、一般的なモータ駆動システムではモータをインバータで駆動することが多いため、供給できる電圧はバッテリ電圧などで制限されます。モータの回転数が上昇し端子電圧がインバータの制限電圧以上となると、電圧飽和が発生して速度限界に至ります。バッテリ電圧に制約がある条件下で、より高速にモータを駆動するためには、誘起電圧の増加を抑える必要があります。図8.1(b)のように負のd軸電流を流すことで発生するd軸電機子反作用を利用して、誘起電圧の増加を抑える制御を弱め磁束制御といいます。弱め磁束制御はFW(Flux Weakening)制御と呼ばれることもあります。FW制御ではd軸電流が以下の式※1となるように制御します。ここで、\(V_{om}\)は誘起電圧制限値です。
$$
\begin{equation}
\large i_d = \large \frac{L_d \psi \pm \sqrt{(L_d \psi)^2 + (L_q^2 – L_d^2)\left\{\psi^2+(L_q I_a)^2-(\frac{V_{om}}{\omega_{re}})^2\right\} } }{L_q^2 – L_d^2} \label{FW制御}\tag{8.1} \\
\end{equation}
$$

   
 

※1 FW制御時のd軸電流導出方法

 FW制御時のd軸電流は次の手順で求めることができます。

●導出方法
インバータの電圧制限を\(V_{am}\)とおくと、電圧振幅\(V_a\)と\(V_{am}\)の関係は以下の式で表すことができます。
$$
\begin{equation}
\large V_a = \sqrt{v_d^2 + v_q^2} \le V_{am} \label{電圧振幅と電圧制限の関係}\tag{8.2} \\
\end{equation}
$$
高速域での電圧飽和を回避するためには、(\ref{電圧振幅と電圧制限の関係})式のように電圧振幅(端子電圧)をインバータの直流電圧で制限される\(V_{am}\)以下にする必要があります。第三回に示した(3.2)式を(\ref{電圧振幅と電圧制限の関係})式に代入すると以下の式となります。
$$
\begin{equation}
\large V_a = \sqrt{(R_a i_d – \omega_{re} L_q i_q)^2 + (R_a i_q + \omega_{re} L_d i_d + \omega_{re} \psi)^2} \label{モータパラメータで表した電圧振幅}\tag{8.3} \\
\end{equation}
$$
ここで、簡単のため抵抗による電圧降下を無視した誘起電圧\(V_o\)を制限電圧とすることを考えます。誘起電圧\(V_o\)と誘起電圧制限値\(V_{om}\)の関係は以下の通りです。
$$
\begin{equation}
\large V_o = \omega_{re} \sqrt{(L_d i_d + \omega_{re} \psi)^2 + ( L_q i_q)^2} \le V_{om} \label{誘起電圧}\tag{8.4} \\
\end{equation}
$$
誘起電圧制限値\(V_o\)は、電圧制限値\(V_{am}\)からモータの定格電流\(I_{am}\)による抵抗の電圧降下を引いた値(\(V_{om} = V_{am} – R_a I_{am}\))に設定することで必ず(\ref{誘起電圧})を満たすため、バッテリ電圧などによって制限されるインバータ出力電圧の飽和を回避することができます。よって、(\ref{誘起電圧})式から、誘起電圧をその制限値に保つためのd軸電流を導出することができます。\(i_q^2 = I_a^2-i_d^2 \)を(\ref{誘起電圧})式に代入すると以下の式となります。
$$
\begin{equation}
\large V_{om} = \omega_{re} \sqrt{(L_d i_d + \omega_{re} \psi)^2 + \left\{ L_q (I_a^2-i_d^2) \right\}^2} \label{q軸電流を消去した誘起電圧}\tag{8.5} \\
\end{equation}
$$
(\ref{q軸電流を消去した誘起電圧})式を整理すると以下の式となります。
$$
\begin{equation}
\large ai_d^2 + bi_d + c = 0 \label{誘起電圧の展開}\tag{8.6} \\
\end{equation}
$$
ここで、\(a\)、\(b\)、\(c\)はそれぞれ以下の通りです。
$$
\begin{align}
\large a &= \large \frac{1}{2}(L_q^2 – L_d^2) \label{a} \tag{8.7} \\
\large b &= \large -L_d \psi \label{b} \tag{8.8} \\
\large c &= \large \frac{1}{2}\left\{-\psi^2-\left(L_q I_a\right)^2+\left(\frac{V_{om}}{\omega_{re}}\right)^2\right\} \label{c} \tag{8.9} \\
\end{align}
$$
(\ref{誘起電圧の展開})式を解くと、(\ref{FW制御})式が得られます。