第9回:ワインドアップ現象とその対策

リミッタを含むシステムのステップ応答

ブロック図

 図9.1にリミッタを含むシステムを示します。「第6回:ベクトル制御のブロック図とPI制御器を用いた電流制御系の設計」の図6.1に示したような速度制御システムでは、電流指令値(またはトルク指令値)は速度制御器の出力によって決定されます※1。一方、一般的なモータ駆動システムでは、インバータやモータの最大許容電流、電圧制限、出力制限などによって、電流指令、電圧指令、トルク指令値などが制限されます。図9.1にはトルクリミッタによって出力トルクが制限された速度制御系を示しています。なお、ここでは簡単のため、負荷トルクがゼロの状態を考えます。

※1 図6.1では速度制御器の出力をq軸電流としていますが、速度制御器の出力をトルクにしてトルク制御を行う場合もあります。

図9.1 リミッタを含むシステム
速度ステップ応答

 図9.2にリミッタを含むシステムにおける速度ステップ応答の例を示します。図9.2では、①の時点でステップ速度指令を入力した際の速度応答を示しています。ステップ速度指令入力から十分時間がたった定常状態では、速度が指令値に追従していることがわかります。しかし、定常状態に達するまでに過大なオーバーシュートが発生しています。これはトルク制限によるもので、PI制御器の積分操作量が過大に蓄積されることによって発生します。

図9.2 リミッタを含むシステムにおける速度ステップ応答
ワインドアップ現象

 図9.2の①でステップ速度指令が入力されると、PI制御器はステップ状のモータ速度応答を実現するためにインパルス状のトルクを出力しようとします。しかし、リミッタによって出力トルクが制限されるため、実際には図9.2の①から②の区間のようなランプ状の速度応答となります。この速度の傾き(加速度)は出力可能なトルクによって決まります。モータ速度が目標速度までランプ状に増加している間、積分器は偏差を積分し続けます。モータ速度が目標速度に達した後は、偏差の正負が逆転するため積分器に蓄積された値は減少していきますが、加速時に蓄積された過大な値(積分操作量)が減少するまでの間、速度にオーバーシュートが発生します(②から④の区間)。このことをワインドアップ(wind-up)現象といいます。ワインドアップ現象は、制御器出力がリミッタによって制限されて出力されることで、制御器の内部状態変数が実際の制御対象の状態量に対して不適切な値となることが主な原因となります。

   

アンチワインドアップ制御

ブロック図

 図9.3にワインドアップ現象を回避する方法の一つであるリミット偏差フィードバック補償法のブロック図を示します。図9.1のシステムではリミッタによって出力が制限されているのにも関わらず、制御器は過大な出力をし続けます。これは、制御器には「リミッタによって出力が制限されている」という情報が反映されていないため起こる現象だと考えることができます。リミッタ前後の差分をとることで実際の制御対象の状態量と制御器の内部状態変数の差を求めることができるため、この情報を制御器の積分偏差にフィードバックすれば、積分器に過大な値を蓄積を防ぐことができます。

図9.3 リミット偏差フィードバック補償法のブロック図
効果

 図9.4にアンチワインドアップ制御を適用した速度制御系のステップ応答の例を示します。リミット偏差を積分器にフィードバックすることで、図9.2と比べるとオーバーシュートが減少していることが分かります。アンチワインドアップ制御の効果は「クラウドモーターシミュレーター β版」でも確かめることができます。

図9.4 アンチワインドアップ制御を適用した速度制御系のステップ応答